【私があなたに!2】3.日和のホンネ_1

 美桜と友達になってから、私の中で何かが変わったことは間違いない。
 美桜と本音で語り合ったあの日、私が友達と必要以上に仲良くなることに恐怖心があることを告白したら、彼女は「そんなことで悩んでたの?」と言い切った。
 間違いなくあの時に変わったんだと思う。
 最初は頭にきた。
 たって、美桜は私の数年間の行動を一言で否定したのだから。

 私の全てを。

 ただ、自分の中で絶対的なものとして位置付けられていたルールが、友達にあそこまで単純に、簡単に切り捨てられてしまったことで、私もどこかで『そんなことで悩んでいたのか』と妙に納得をしてしまった。
 過去の私ではなく、今の私として冷静に考えて。
  
 ただそれでも。
 頭の中では分かっていても、結果的に日常生活は何も変わっていない。
 逆に変に意識してしまうことも多くなっちゃって、相変わらず友達との距離は一定のまま。

 一人だけ、全てを打ち明けた美桜を除いて…………。
 
 美桜は不思議だ。
 高校で一緒のクラスになって、六月位から一方的に私に敵意を向けてきた。
 私は戸惑い、そして腹を立てた。
 ただ、そんなことをされたら相手のことを嫌いになって、それで終わりというのが普通ではないだろうか。
 いや、事実だけを受けいれよう。
 そんな美桜と、私は友達になった。
  
 もしかしたら友達と呼ぶのは少し違うのかもしれないけど、美桜から『友達になろう』と言われて、私が合意したのだから、きっと友達なんだと思う。

(『友達になろう』って言って友達になるなんて、なんだか小さな子供みたいだ)

少し甘酸っぱい気持ちになり、おかげで、やっと今日テストが終わり気分が晴れやかになったのにもかかわらず、ホームルームが終わるなり近づいてきた友達から『彼氏に振られそう』という話しと『ストレス発散のために買い物に行かない?』という、気分が乗らない提案をされて沈んだ気持ちを立て直すことができた。

「日和、で、今日の放課後空いてるの?」
「うーん、ちょっと約束があった気がするんだよね。確認してみる」

 私は、席替えで遠くの席になってしまった美桜にこれみよがしに声をかける。
 
「美桜、みーお。おーい! 聞こえてるー?」

(無視するつもりかな? よーし)

「おーい、風間 美桜さん。応答せよ! おーい!」

 今日の図書室に行く前の教室でのやりとり。
 今思い出してもなんだかくすぐったい。友達の話で気分が沈んだことなどとうに忘れてしまった。
  
 美桜の困ったような、恥ずかしそうな、それでいて、どこか嬉しそうな表情は本当に可愛かった。
 その後、私とちひろ以外、友達はいらないと言われたときは、思わず抱きしめたくなる衝動に駆られた。
 その耐え難い衝動を我慢した私を誰か褒めて欲しい。 

 放課後、美桜と一緒に図書室へ行き、読みかけの小説を読終えたところで美桜もちょうど勉強に一区切りがつきいたので、学校近くの公園に移動して、予定通り話をした。
 今までのテストのこと、今回のテストのこと、あと、この先のテストのこと。

(あれ? テストの話しかしてない?)

 ただ分かったことは、テストの出来不出来以上に、美桜にとって今回のテスト勉強がとても特別な経験になったということ。
 美桜と私と美桜の親友のちひろと三人で一緒に勉強したことが、何よりも楽しかったようだった。
 
「勉強してて楽しいと感じたのは今回が初めて」「教えあう友達がいるってすごい」「テストも、勉強時間が少なかった割には、手応えがあった」「あの…………日和、ありがとう! ちひろにもありがとうって言わないと!」

 少し興奮した様子で話しをする美桜は、以前とは別人のようだ。

 美桜は、教室では、周りの目を気にしてしまい、上手く話すことが出来ないみたいだけど、私の前では少なくとも普通に話せている……と思う。
  
 でもそれは私も同じ。
 私も、美桜の前では素の自分がでている。
 もし仮に、そうでないとしたら、美桜はそのことを敏感に感じとってしまって、こんな関係は築けなかっただろう。 
  
 思ったことをそのまま言える関係――。
  
 相手の様子を常にうかがって、仲良くなりすぎないようにする、私のルール。
 そんなことをルールにしていたのかと気がついた。
 ただ、今まで続けてきたことやめることは、一朝一夕でできるものじゃない。
 いや、素の自分でいられるのはものすごく気が楽だけど、そんなことができるのは、やっぱりすべての事情を知っている美桜だけ。
 もはや、ルールの有無なんて関係ない。
 他の友達では無理なのだ。

(こんなに美桜に依存することになるなんて、思ってもみなかった…………)
 
 図書室も、とくに用事がない日以外は行くようになった。
 
 もちろん、一番の理由は美桜がいるから。
 だけどもう一つの理由は、図書室というあの空間がとても好きだということに気がついたから。
 いつも、そこそこ人がいるにも関わらず、必要以上に話さない、物音を立てないという共通認識の下で成立しているあの空間の居心地がすごく好みだった。
 
 持って行った小説を読むにもいいし、小説に飽きたとしても、あそこには先人たちの知識、創作、歴史が確かに存在して、私を満たしてくれる。
 あと、寝てても誰からも文句を言われないのもいい。
  
 ちなみに最近の私の図書室でのブームは、勉強に集中している美桜をこっそりと観察すること。
 真剣に勉強している美桜は、かっこいいとカワイイが混在している。
 問題に悩む顔、答えが分かって喜ぶ顔、本当に見ていて飽きない。

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