【小説:私があなたに!】22.日和と美桜

(よかった…………)
 
「ありがとう」って言ってくれた時の風間さんは笑った顔ではなかったけど、緊張が取れた優しい顔で、すごく、すっごく可愛かった。
 これから彼女と仲良くなれるかもしれない。そんな期待で私もすごく嬉しかった。

 なのに………………。
 
「青井はなんでそんなに優しいのに、普段友達と距離を置くの?」
 
 こんなことを聞いてきた。

「私の勘違いだったら本当にごめん。だけど、私、青井のことずっと見てた。その時に思った。青井、本当の気持ちとかを友達に言ってないように見えた」
「それに特定の人と一緒にいないように、仲良くならないようにしてるように見えた。私と違ってたくさん友達がいるのに、友達に対して青井の意見を言うことすらしてなくて、ひたすら、波風が立たないように接しているように見えた。どこにも、本当の青井がいないみたいな」
「そんな時は、さっき見せてくれたような顔で全然笑ってなくて、青井、どこか寂しそうで。辛そうにみえ…………」

「あたなに何がわかるの?」

(やっちゃった……)

 どうしても耐えられずに強い口調で応えてしまったためか、風間さんはビクッとして、気まずそうな顔をして黙った。
 
 いきなり確信を突かれた。

 もちろん普段であれば適当に取り繕うこともできたと思う。
 ただ、もう風間さんの前ではそれは無理だ。
 
 おそらく、もうかなり前から彼女は気が付いている。
 もう下手な取り繕いも必要ないだろう。

「ご、ごめん。そんなことないよね。私の気のせいだったかも…………今言ったことは忘れて…………ください。…………えっと、それじゃー私、そろそろ帰るね。今日は色々とありがとう。また明日学校で…………」
「待って!」
 
 私が風間さんに対して拒絶したような態度をとったせいだろう。
 帰ろうとベンチから離れた風間さんを呼び止めるために、咄嗟に手を掴んでしまった。
 
 これもいつもの私だったら絶対に取らない選択肢。
 でも、このままじゃ絶対にダメだと思った。
 
「待って。まだ時間あるなら、ちょっと、話がしたい……かな」
「…………うん。わかった」
 
 風間さんはそう応えると、気まずそうにベンチに戻ると、落ち着くためかさっき渡したお茶を飲んでいる。
 
(風間さんの話を聞いたから私も話したくなった? いや、これは絶対違う)
(私、風間さんに対しては正直でいたいと思っているんだ…………)
 
 結局は、自分自身を守りたいと言う気持ちで、友達と必要以上に仲良くならないというルールを作った。
 これまでだって、同じような指摘をされたことはある。
 その時は、心の中では「マズイ」と思いながらも平常を装い、波風立たないように取り繕ってきた。

 ただ、いま私は、自分で決めたルールを破ってでも、風間さんに対して、彼女が素直に聞いてきた質問に答えたいと思っている。

(風間さんだって、ちゃんと話をしてくれたから)

 ただ、もちろんそんな綺麗な気持ちだけで、そう思ったんじゃない。
 
 私は、風間さんだったら、何を言っても大丈夫だと思っている。
 風間さんだったら、例え関係が悪くなっても別に大したことじゃないと思っている。
 風間さんだったら、本当の私を知ったとしても誰かに話したりすることはないと思っている。
 風間さんだったら、別にこの先まったく関わりがなくなっても私の普段の生活が変わるわけじゃないと思っている。

 酷い話だ。 
 友達になりたいとか言ったところで、結局はそんなことを打算的に考え、感じ、思い、信じている私が確かにいるのだ。
 
(私も私が一番大切だし、私が私の一番の味方なんだ)
(友達になりたいのは本当。ただ、そんなキレイゴトばっかりじゃない。でも私は風間さんには嘘をつきたくない。偽物の私でいたくない)
 
(風間さんだったら…………もしかしたら分かってくれるかもしれない)
 
 意を決して、私も風間さんが座っているベンチに戻り、お茶を飲んで気持ちを落ち着かせる。
 買った時の暖かさはもうとっくになかったが、ずっと握ってたおかげでほんのり暖かく、不快さはなかった。

「あのね、風間さん。さっき風間さんが言ったこと、合ってるよ。正解。私、友達と必要以上に仲良くなることを避けてるの。これ、誰にも言ってない、私のルールなんだ」
「そう……なんだ」
 
 さっき、私が強い口調で「何がわかるのか」と問いかけてしまったからか、風間さんは遠慮がちに答える。
 
「うん。でもまさか、風間さんに気づかれるとは思ってなかった。これ、友達から指摘されることもたまにあるけど、結構接点持っている人からしか指摘されなかったし、風間さんすごいね」

(これは、少し嫌味だったかな…………)
 
「私ね、昔はこうじゃなかったんだよ。それこそ、私は周りの人全員と仲良くなりたかった。友達100人どころか、無限に友達を作れて、仲良くなれると信じてた。そして、友達が困ったり、悩んだりしてたら、必ず私がなんとかしたいって、本気でそう思ってたんだ。でも、そんなことは無理だよね。本当に子供だった」
 
 風間さんは、途中で私の方を向いて何かを言いかけたが、迷った末に口を開くことはなく、再びうつむき話を聞く姿勢に戻る。
 
(大丈夫かな、めちゃくちゃ引かれてたりしないかな)

 不安はあったけど、私も風間さんに全部話した。
 今まで溜め込んだ全てを吐き出すかのように。
 一方的な私の憂さ晴らしだったようにも思うけど、彼女は何も言わず根気よく付き合ってくれた。

(風間さんは、おもちゃじゃないのにね…………)

「ということで、私は、私のために、私を守るために、友達に裏切られないように、友達とはあまり仲良くしないようにしてるの。話はおしまい!」

 一気に話を終え、残りのお茶を一気に飲んで一息つく。
 初めて人に話したので、うまく伝わったかは分からない。
 伝わったとしても理解されるかは別問題だろう。

 そもそも…………。

 ちらりと風間さんの方をみると、彼女は、大きく目を開き、とても驚いたような顔で私の方を見つめていた。

「話はおしまいだけど、ど、どうした?」

 意外な反応だったので、私の方が面食らってしまい、風間さんに話しかける。
 
「えっと、何ていうか………………そんなことで悩んでたの?」
 

(は? 今なんて言った?コイツ……)

「どういうこと?」

 語尾が怒ってるようになってしまった。
 というか、怒ってるな、私。
 
「いや、だから、そんなことで悩んでたのかなって」
「そんなことって、どういうこと?」
 
 気持ちが追いつかずに感情的に答えてしまったが、悪いとは思わない。
 そんなことを他人から言われる筋合いはない。
 
「ごめん。でも、私には、少なくとも私には、それはそこまで青井が気にすることじゃないって思った」
「そんなの、あたなが決めることじゃないよね」
 
「う、うん。でも、青井は昔の青井の友達が言ったような人じゃないって、短い間だけど私は青井のことを見てたから分かる。それに、今日私と色々話してくれたから、もっと分かる。青井の言う通り、その時の友達もそこまで意識して言ったことじゃないと思うよ。それこそ、その時は青井のことが羨ましかったんだと思う。私、その子の気持ち、わかるよ。私と一緒だもん。青井の言ったことに対して、自分の行動を恥ずかしいって思ったり、正しいことをした青井に対して、嫉妬を感じちゃって、言ったことなんだと思う」

「だから、私は青井がそこまで気にすることじゃないと思った」

「それは、風間さんの言う通りなのかもしれない。ただ、私はもう嫌なの。友達から裏切りみたいな言葉をかけられることが。そんな気持ちになるのなら、私は友達なんかいらない。ただ私は、風間さんみたいに強くない。風間さんみたいに一人でいることには耐えられない。それって間違ってることなのかな」
 
「わ、私だって好きで一人でいるわけじゃないよ」
 
「ごめん言いすぎた。謝る」
 
 どうも調子が狂う。

「ううん。でも、質問に応えてくれてありがとう。青井がなんで友達と一定の距離を置きたいと思っているのかは分かった。でも、もう1つ聞いてい? あの…………それって辛くない?」

(もうだめだ。わかった。この子は、本気で私と向き合おうとしてるし、本当のところ、私がどうしたいのかを知りたいのだ)
(ただ、今更そんな気持ちを向けられたって困る。どうしたらいいかなんて、もうわからない)
 
「辛いからってなんなの? そりゃ辛いよ。私だって、もっと友達と仲良くなりたいと思うよ。一緒に笑いたいよ。ただ…………さっき言ったでしょ? 怖いんだよ。わかる? 信じてたくさんの時間を過ごした友達から、いきなり心ない言葉をぶつけられて、傷つくのが怖いの」
 
 もう、止まらない。
 
「人と人ってさ、どうやって向き合えばいいの? わからない、わからないよ! 友達ってなに? いつも一緒にいなければ友達じゃないの? 他の友達と仲良くしちゃいけないの? 言いたいことも言っちゃいけないの? いきなりなんで悪口言うの? もうどうしたらいいいか、分からないんだよ」

 思いのたけをぶちまけた。
 今まで押し殺してきた、数年分の感情が一気に爆発したようだった。
 
「人との関係は、不変じゃないよ。今の青井と私のように。不変のものなんか、ないんじゃない」
 
「それは……わかってる。だけど……」
 
「今の友達だって、青井が細心の注意を払いながら接している友達だって、いつか青井を傷つけるかもしれない。逆に、どんなに注意してたって、もしかしたら青井が相手を傷つけている部分もあるかもしれないよ? どっちにしたって、不変じゃない関係の中で必ず何らかの形で訪れるであろう絶望に怯えるより、その時その時を大切にした方がいいんじゃない?」
 
「それはそうなんだけど……」

 風間さんに指摘されたことはも、これまで何回も何回も考えた。
 ただ、そう思ったところで、そう期待したところで、結局は私がどう思うか、どう感じるか次第だ。
 友達と深い関係が怖いということは変わらず、堂々巡りでしかなかった。

 だから…………。
 
 
「じゃあさ青井、こんなのはどう?」
 
「なに?」

「私から初めてみるのは……どう……かな?」

「なんで私があなたと?」
 
「だって、私に対しては、青井も遠慮ってないでしょ。それは、私のせいなんだけど、そんな私だったら、別に今更何を言われたって大丈夫なんじゃない? 嫌なことは嫌って言えばいいし、もう付き合うのが無理なのであれば、私から離れて、一生喋らなくてもいい」
 
「そんな私が言うことだから、信じられないかもしれないけど…………私、青井と『友達になりたい』」

(…………………………)

「これまでのことをなかったことにして欲しいわけじゃない。罪滅ぼしで言ってるんでもない。私のいまの正直な気持ちとして、私は、青井と友達になりたい!」

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この記事を書いた人

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