【小説:私があなたに!】閑話一:ちひろの願い

 みおちゃんは、小学校の頃からずっと同じクラスの友達。
 ずっと同じなのは偶然かもしれないけど、本当に嬉しいし、今後もそうなればいいと思ってる。

 小学校・中学校は公立なので、学校が別々になることはないけど、高校は危なかった。
 中学受験を意識する頃になると、もしかするとみおちゃんと別の高校になっちゃうかもと思ったら、何だか胸のあたりがギュッとなってしまい、息が止まるんじゃないかと本気で思った。
 
 進学先はみおちゃんの中学の成績を考えれば今通っている女子校しかないと思っていたけど、確証が無かったのでそれとなく確かめた。
 目指す高校が決まれば、あとは勉強して合格するだけだったけど、私だけ合格しても意味ない。
 お互い合格したことを知った時は、本当に嬉しかったのを覚えている。
 
 でも高校も、もう少しで文系か理系かを選択しなければならない。
 みおちゃんはどっちを選択するのだろう。同じだったらいいな。
 
 私は、将来何をしたいとか、何になりたいとか、そういう夢がない。
 お母様には、中学校や高校への進学の際「私立の学校への進学も考えたら」と言われたが、みおちゃんと離れてしまうのは絶対に嫌だったので断った。
 別にやりたいこともなかったし…………。
 家業も、二人いるお兄様が継ぐので、小さい頃から「ちひろは自分のやりたいことを自由にしていいよ」と言われてきたので、楽しく自由に過ごしている。

 今日みおちゃんから、図書室に行ったらすごく良かったという話を聞いた。
 それはもう嬉しそうに話していて、本当に久しぶりにみおちゃんが楽しそうな顔を見た。
 その顔を見ただけで私は嬉しかった。

 ただ、図書室が良かった理由を話してくれたんだけど、それを聞いたら叫び出したいくらい悲しい気持ちになってしまった。
 
 みおちゃんがお母さんとあまり仲が良くないということは、これまでも何回か聞いたことがある。

 ただ、今日みおちゃんの話を聞いたら、これはまずいと本気で思った。

 家にいることが苦痛であり、その理由がお母さんとの関係にあること。
 そして何よりも、みおちゃんがその環境を自分の中で普通と受け入れ、何も疑問に思っていないこと。
 みおちゃんには安らげる居場所が、無い。
 
 こう言ったらみおちゃんは怒ると思うけど、昔から少し気難しい子だった。
 中学はソフトテニス部に入っていたけど、他の子とのコミュニケーションがうまくいかずに、結果、意思疎通が重要なダブルスがまったく機能せず、ペアの子と気まずい雰囲気になってしまい、ペア解消。
 そんなみおちゃんと組みたいという子もいなくなって、その後は試合に出られなかった。

「ペアの子と話したりしないの?」と聞いてみたことがあったけど「うん。何を話していいかわからないし、向こうからも話しかけて来ないから」と言っていた。
 
 そんな様子だったけど、みおちゃんは陰で本当に努力をしていた。
 部活が休みの日もランニングは欠かさなかったし、私もそれに付き合ったことが何度もある。
 顧問の先生が「風間は他の子とコミュニケーションが取れれば、部の中でもトップの実力があるのに、もったいない」と言っていたのを聞いたこともある。
 その時も、嬉しい気持ちと悲しい気持ちが半分半分だった。
 
 本当は、向こうから話しかけられないのならこちらから会話のパスを出したほうがいいと思っている。
 それがみおちゃんは苦手なんだと思う。
 仲良くなればすごく友達思いなところがあるし、話してみると結構おもしろい。
 学校や部室でも居場所がないと昔から言っていたが、もし友達がもっといれば、そこがみおちゃんの居場所になっていたと思っている。
 いや、本当は私がみおちゃんの居場所になりたかった。
 
 みおちゃんはおそらく覚えていないと思うけど、小学校に入学してすぐのこと。
 幼稚園の頃の私は引っ込み思案でなかなか自分の意見が言えず、友達もあまりいなかった。
 学校探検の授業で先生が「二人一組になって」と言ったときも、誰にも話しかけることができずに教室の隅に立っていて、あまりの寂しさと焦りに泣きそうになった。
 
 そんな時、教室の反対側からズンズンやってきて、私の手を取って「一緒に組もう」っていってくれたのが、みおちゃんだった。
 私はものすごく小さな声で「・・・・・・うん」と頷くことしかできなかったけど、すごく嬉しかった。
 自分から会話をすることに苦手意識がある子だなんて、その時はまったく分からなかった。
 
 小学校に慣れてくると、だんだん友達と話す機会も増えてきて、楽しいことが増えていった。
 それもみおちゃんが「ちーちゃんは、もっと元気にお話ししたほうがいいよ! ちーちゃんが笑ってると、ちーちゃんの周りがパァッて明るくなるから好き!」って言ってくれたから、がんばれた。
 それで自信を持って話せるようになった。
 そうやって、仲の良い友達がたくさんできても、やっぱりみおちゃんは私にとって特別な友達だった。
 
 だけど今日、私は確信した。
 私じゃ、みおちゃんを幸せにすることはできない。
 みおちゃんを心の奥底からの本当の笑顔にすることはできない。
 いままでもそう思うことはあったが、私自身がそれを認めたくないという気持ちが強かった。
 私はみおちゃんの気持ちを想像できるけど、みおちゃんの闇を受け止められない。

 理解できない。
 
 それを認めることはとても辛く悲しいことで、学校から帰ると泣いてしまった。
 家族にも心配をかけている。
 ただこればかりはどうしようもない。
 今日だけ。
 明日からはいつもの元気な私になる。
 みおちゃんが好きと言ってくれた私に。
 
 私はみおちゃんが好き…………大好きだ。
 ただ、その大好きな相手を幸せにできない、本当の笑顔にできないということが確信に変わってしまった。
 こんなに辛いことは、これからも無いと思う。
 
 涙はまだ止まらないけど、明日までにはなんとかしよう。
 みおちゃんが心配するかもしれないから。
 私はみおちゃんにいつも幸せでいてほしい。
 本当の笑顔でいてほしい。

 私にはできないことだけど、それでも私は、みおちゃんの友達としてそばにいることはできる。
 願うことはできる。
 神様でもなんでもいい、私にできることはなんでもする。

 だから・・・・・・

「誰か、みおちゃんを助けてください。幸せてにしてあげてください」

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