「友達になれたらいいね」
私はみおちゃんにそう伝えるのが精一杯だった。
大好きなみおちゃんが傷ついていることへの苛立ちから感情が抑えられず、元凶の1つのみおちゃんのお母さんを責めてしまった。
私は、みおちゃんが好きだ。
おそらく友達としての好きという気持ち以上に…………。
ただ、それはみおちゃんに伝えることはしない。
私じゃみおちゃんを幸せにすることはできないから。
だったら、そんな気持ちは伝えない方がいいと思う。
男の子が好きとか、女の子が好きとか、よくわからない。
私は、たまたま人生で初めて好きになった相手がみおちゃんだったってだけ。
ただそれだけのコト。
何が私にできるか分からないけど、心がギュッとなったから、みおちゃんに会いにいった。
それは間違っていなかった………………と思う。
(……少しはみおちゃんの助けになったかな)
みおちゃんの帰った自分の部屋は広く感じてしまい、いつもと違うように見えた。
みおちゃんがさっきまでここにいたという事実が、確かな存在感として部屋にまだ残っている。
みおちゃんには申し訳ないが、それがたまらなく嬉しかった。
コンコン。
ドアをノックする音。
「ちひろちゃん、いる?」
「はーい」
呼びかけに応えると、お母様が入ってきた。
「お母様! いろいろとありがとう。突然ごめんね」
ちひろは、飛びつくように抱きつくと、頭をぐりぐりと押し付ける。
「みおちゃんのこと? いいのよ。私に何かできることがあったら言ってね」
「うん! 頼りにしてる」
「でも、みおちゃん、大変そうね。特にみおちゃんのお母さん。みおちゃんへの過度の依存というか、そういうのがすごく強い人みたい。みおちゃんのお家に電話したとき、開口一番『娘を返してください』だったもの。私、びっくりしちゃった。ちひろちゃんとみおちゃんが小学校から一緒だったから改めて自己紹介と状況をお伝えした後、友達同士でお話しすることで、何か変わることがあるかもしれないとご説明して、やっと納得してもらえたの。一応、みおちゃんが戻った時に、みおちゃんを叱らないで下さいね。とお伝えしておいたけど、みおちゃん、大丈夫かしら。それが心配」
お母様が電話をしてくれたことは知ってる。ただ、1時間位お話をしているようだったので、おそらくそれ以上の話も色々としてくれたのだろう。
「本当にありがとう」
「どういたしまして。あと私、気がついちゃった」
お母様が顔を私の耳元に近づけ、囁く。
「ちひろちゃん、みおちゃんのこと大好きでしょ」
ものすごくイタズラっぽい声だったけど、決して馬鹿にしているようではない口調で、お母様が尋ねてきた。
「うん。好き。みおちゃんのそばにずっといたいし、みおちゃんに幸せになってほしい」
「………………そっか」
ふふっと笑い、お母様は言った。
「好きな人のために、何かできるのは良いことね。後悔のないようにね」
「はい!」
「よし! さすがちひろちゃん。そうそう。次のお父様の会社の集まりで、ちひろちゃんが着るお洋服の相談で来たの」
「えー。やだー。行きたくない」
「知ってるけど、そうもいかないでしょう。我慢してね」
「うーーーー」
お母様には、みおちゃんの件でがんばってもらったので、抗議し辛い。
渋々ではあるが了承する。
華美な装いは正直あまり好きじゃない。
私という存在が、私以外の事情で上塗りされているような気がするから。
でもそんな私の気持ちは関係ない。
そんなことを言って、周りを困らせることはできないし、そこまで子供じゃない。
わかっている。
わかっているのだけど……。
本当の気持ちは、隠してばかりだ…………。
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