【私があなたに!2】7.お泊まり会_1

(ちひろから来たメッセージ…………ちひろのお母さんが料理張り切って作るって…………。すごいの出てきたらどうしよう)
 
「ふーっ」

『友達の家に泊まる許可を得ること』たったこれだけのことなのに、すごく疲れた。
 
 前回ちひろの家に泊まったときは、半ば家出のような形だったので、今回、私は初めて正々堂々と友達の家に泊まる。
 
 正々堂々ってなんだ?と自分でも思うけど、その通りなのだから仕方ない。
 ちひろから泊まりに来ないかと誘われたときは『楽しそう!』という気持ちが溢れた。
 ただすぐに母親の顔が浮かんでしまい、嬉しい気持ちが一気にしぼみ、ドロドロとした負の感情が体を支配した。

 うちの母親がなんて言うかなんて想像できなかったし、どう許可をとるべきかを考えるのも憂鬱でしかたがなかった。
 ただ実際は………………。

『向こうのお家に迷惑がかからないようにしなさい』

 何を言われるかと身構えていたけど、それだけだった。
 あとは、勉強に影響が出ないようにと言われたが、そんなことは言われるまでもない。
 あっけなかった……。
 
 ここ最近、うちの母親がヒステリックになった記憶はない。
 というか、そもそも必要最低限の会話をした記憶がなかった。
 
「おはよう」「いただきます」「ごちそうさま」「いってきます」「ただいま」「おやすすみ」基本的に、これだけ。
 
(全然、気がつかなかった……)

 意識してそうしていたわけではなく、自然とそうなっていた。
 他の家族はどんな会話をしているのかなんて分からないけど、私が思っている以上に、我が家はダメになってしまったのかもしれない。
 
 ただ不思議と、寂しいとか、悲しいとか、申し訳ないとか、そういった感情は一切なかった。
 
 そういう意味では私も、ダメになってしまったのだろう。
 誰かにとっては…………。

 あまり考えてもしかたないので、日和に明日図書室に行かないことを連絡しようと思い、メッセージアプリを立ち上げた。
 
 日和は、今日は別の予定があったみたいで放課後図書室に来なかったが、変わりに『ごめん、今日、図書室行けない』というシンプルなメッセージと、彼女らしい、ほんわかとしたキャラクターが謝罪しているスタンプが送られてきた。

 私が『OK』と返して、やりとりはそれで終わり。

 それに続く形で
『明日は、ちひろの家にいくから、私が図書室いけない』

 私も何かスタンプを送った方がいいかと悩んでいると、直ぐに既読がつき『りょーかい! ちひろにもよろしく伝えてね!』とメッセージが来た。

(返信、はやっ!)

 乾いた心が満たされるように暖かい気持ちになる。
 日和みたいな人が私の母親だったら、私はもっと違う私になれていただろうか。
 先ほどまで感じていた言いようのない虚無感はもうない。

 その日、とても良い夢を見た気がしたが、朝起きると何も覚えていなかった。

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