【私があなたに!2】16.もったいない!1_1

 約束の日曜日。

 駅構内、改札を出て右に少し行ったところにある、変な大きい石の前に午後二時に集合。
 集合時間にはかなり早いと思ったが、特にやることも無かったので早めにお昼をすませ、十二時過ぎに家を出た。

 集合場所の駅は、うちの県では一番大きな駅で新幹線も停まる。
 隣接する駅ビルの中に色々なショップが入ってるし、本屋もあるので本好きとしては本の探索だけで二時間は平気で潰せると思った。
 
 一人で気楽に出かけるのも楽しいけど、やっぱり今日は特別な日だった。
 学校、図書室、帰りの公園。
 どこでも美桜と一緒なら楽しいけど、休みの日に会うのはやっぱり特別だと思うし、楽しみで仕方なかった。
 
 ふわふわとした気持ちで駅に着き、さすがに誰もいないと思ったけど一応集合場所に行くと、そこにはスマホを不安そうに何度も確認してている美桜いた。

(はやっ! てか、美桜全然私に気づいてないな…………)

 美桜はどちらかと言えば気の強い性格だけど、最近はそれだけでない全然別の姿が見れて面白い。
 もしかすると、気の強い性格という見立てが違っているのかとすら思う。
 
 今日だって、初めて自分から友達を遊びに誘ったようで、何をどうしたらいいのか、かなり不安そうにしていた。
 だから、多分何があってもいいようにこんなに早く待ち合わせ場所に来たのだろう。
 本当に、真面目で、素直で、優しくて………………。

「かわいいなぁ……」

 困っている美桜をしばらく観察してるのもいいかなと思ったけど、さすがに可哀想なので合流する。
 さてさて。

「あのー? ここいいですか?」
「ひゃい!」

 私はちょっとしたイタズラ心から死角から美桜に話しかけたところ、どうやら本気で驚かせてしまったらしい。
 美桜は飛び上がる勢いで『気をつけ』の姿勢になり、よくわからない返事をした。
 
 これは絶対後で美桜に怒られると思ったけど、あまりに面白かったので、私は周りの目も気にせずに笑ってしまった。

「もう、日和、もう! こんなときまで、何やってるのよ!」

 予想通り、美桜はプンプン怒っている。
 怒り顔すらかわいいと思ってしまうのは、私が美桜の本当に冷たい表情を知っているからなのか、それとも私が美桜のことが好きだからなのか…………。
  
「ごめん。ごめん。ついついいつものクセで、美桜の隣にいるための合言葉言っちゃった」
「なにそれ意味わからない…………。こんなに人がいっぱいいるところでそんなことする必要ないでしょ? いきなり話しかけられて本当にビックリしたんだから! それに変な声出ちゃって、めちゃくちゃ恥ずかしかったし」
「確かに…………。でも美桜、かわいかったよ」
「な、なに言ってるのよ…………いつか絶対日和にも同じことして、ビックリさせれあげるから」
「美桜が? 私に? そっか、楽しみにしてるね」

 美桜はきっとバレバレな方法で私を驚かせようとするだろう。
 私に気が付かれないように近づいてきて…………ドキドキした表情で…………。
 それを想像すると、思わず期待で顔の表情が緩くなる。
 そんな可愛い美桜が見られるのは私だけ。
 私だけの特権だ。

「また碌でもないこと考えてるでしょ」
「別に〜」

 美桜は片方の頬を膨らませて抗議してくる。

(残念ながら、私にとってそれもご褒美なのだよ美桜ちゃん)

「と、ところで日和、集合時間までかなり時間あるけど、どうしたの?」
「いや、家でやることなくて、暇だったから来ちゃった。本屋さんで適当に時間潰そうと思って。美桜は?」
「わ、たしは下見…………じゃなかった。私も同じ!」

 明らかに下見と言った気がするけど…………。
 美桜のこういうところが好きだと改めて思う。

「あのさ、ちひろ来るまでまだ時間あると思うから、美桜も一緒に本屋さん行かない? もし興味あればだけど……」
「行く!」

 食い気味に返事をされて、思わずビックリしてしまった。
 美桜は普段、図書室で勉強しかしていないので本にはあまり興味が無いのかと思ったけど違うのかもしれない。
 まだまだ美桜の知らない部分があるのが嬉しい。

「オッケー、それじゃ行こっか」
「うん」

 あまり駅には来たことがないのか、集合場所から目と鼻の先の距離にある本屋へ、美桜は私の少し後ろを歩いてついてくる。
 なんだか、私の首のあたりと手のあたりに視線を感じるけど、もし勘違いだったらどんな言い訳をすればいいか分からないので、気付かないフリをした。

「日和はいつも小説読んでるけど、好きなジャンルとかあるの?」
「うーん…………特に無いかな。好きな作家さんとかはいるけど、表紙とタイトルだけで買うことも多いし。ジャケ買いってやつ。小説のほかに図鑑とかもちろんマンガも結構好きなんだけど、お金かかるから買うのはもっぱら文庫かな。コスパいい」
「そうなんだ」
「私さ、本屋さんの雰囲気が好きなんだよね。圧倒的な情報量に埋もれる感覚? だから図書室も居心がいいって感じるんだと思う。あと、新刊のチェックも楽しい。今日は荷物になっちゃうから買わないと思うけど、ビビビっと来たものあったら、その場ですぐに買っちゃう」

 ビビビのところで両手をカタツムリのように頭に持っていったら、それを見た美桜が小さく吹き出して笑っている。
 特に意識せずにしたので、ちょっと恥ずかしくなったけど、美桜が笑ってくれたからそれでいい。

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