【B_Review】稼ぐより、踊れ!『22世紀の資本主義(成田悠輔)』

真の資本主義とは?未来に実現する“データ資本主義”の輪郭

本書は、経済学者は成田悠輔さんによる未来のかなり大胆な予見であると同時に、資本主義という制度の可能性と限界を多角的に検討し、荒唐無稽ながら“高い可能性であり得る”と思わせる暴力にもにた力強さを感じた。

特徴的なのは、著者の“懐疑”の姿勢。
たとえばインターネットやAIに代表される現代の技術革新が、必ずしも産業革命と同程度の生産性向上をもたらしていないこと。全要素生産性(TFP)の世界的停滞が続いていることをあげつつ、デジタル技術の経済的効用に対する過度な楽観を鋭く批判している。

一方で、未来の経済社会においては「お金」という共通の価値尺度が曖昧化し、代わって個人のあらゆる行動・属性データが記録・蓄積されていき、その蓄積されたデータを背景に、個人に提供されるモノやサービスの“価格”が異なる世界が到来すると述べる。
すなわち、価格は一意のものではなく、個人に対して蓄積された“データ”に応じて動的に最適化される一物多価の状況が原則となるため、これは個別最適化された市場メカニズムの発展形としての「データ資本主義」とも言えるだろう。

この市場メカニズムに立てば、従来の“所得水準(=経済的購買力)”という安易な前提が崩れる。
成田さんが示唆するように、善行や社会的影響力といった非貨幣的データが購買条件に影響する世界では、仮に年収が低くても、年収が高い人よりも蓄積されたデータの属性が良ければ、安価でモノやサービスの提供受けられることから、所得水準という指標のもつ説明力は著しく低下することになる。

また、本書のもう一つの注目点は、圧倒的な文献・出典の網羅性である。
随所にわたって引用される書籍、論文は多岐にわたり、長文のコメントで補足的な説明がさえる箇所も多く見られるため、興味関心がある文献を個別に追うことで、さらに知見を深めることができる構成となっている点は非常にありがたい。経済学・社会学・データサイエンス・思想史といった学際的な文脈での再読にも堪える内容であり、本書が単なる“妄想”にはとどまらない説得力を有している所以だろう。

未来の市場を形づくる“価格”、“価値”、“富”の概念の再定義に迫るこの一冊は、経済学・社会理論の探究者にとって重要な読書体験となることは間違いない。

周りを翻弄するような語り口調で、時に物議を醸し出す成田さんだが、とあるメディアで「この本を書くのが大変でした」と素直にコメントをされていた。普段あまり見せないようにしていると思われる成田さんの本当の人柄が見えたような気がして笑みが溢れてしまった私の行動は、果たしてデータ資本主義の世においては善行と判断されるのだろうか。それとも……。

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